- 松村豪太さんがISHINOMAKI 2.0を立ち上げた理由(「戻したくない」という決意)
- IRORI石巻の誕生と変遷(ガレージからコミュニティカフェへ)
- 石巻の港町ならではの魅力(野良フォントが躍る繁華街)
MORIUMIUSを後にし、GOOT取材チームが向かう先は、アイトピア通りと立町通りが交差する場所にある「IRORI(いろり)」。地域づくり団体「ISHINOMAKI 2.0」の拠点であり、この街の「面白い未来」を仕掛ける作戦会議室です。
ガラス張りのファサードから外の光が差し込む、開放的な空間。ここで迎えてくれたのは、ISHINOMAKI 2.0代表理事の松村豪太さんでした。
「大嫌いだった街」を面白くする ── 松村豪太さんが選んだ道(ISHINOMAKI 2.0)

松村 豪太(まつむら・ごうた)さん
ISHINOMAKI 2.0 代表理事
プロフィール:「行動的なニート」が歩んできた道
1974年、宮城県石巻市生まれ。「失われた30年を最前線で堪能した世代」と自称する松村さん。閉鎖的で保守的な地元が嫌で、高校時代は函館へ「脱出」しました。
大学で研究者の道を志すも挫折。その後はバーテンダーをしたり、NPOの手伝いをしたり、定職に就かない日々を過ごしていました。本人いわく「行動的なニート」。夜な夜なバーで管を巻いて「この街つまんないよね」と無責任な批判ばかりしていた、と笑います。
そんな中で迎えた2011年3月11日。東日本大震災。石巻市は犠牲者数、浸水面積、流失家屋、経済的損失——あらゆるデータで高い数字を記録した被災地の一つとなりました。
石巻との関わり:「復興団体じゃありません」から始まった
「石巻2.0はまちづくりをやっている団体活動です。震災をきっかけに起きた活動団体であるという側面は事実としてあります。ただ、当初から『復興団体じゃありません』という自己紹介で始めることが多かったんです」
困っている被災者を支援する団体も当然あってしかるべき。けれど松村さんたちは、そうじゃないところで街を盛り上げてきました。
「僕はこの街の生まれ育ちなんですけど、この街が非常に嫌いだったんですね。閉鎖的なところがあるし、保守的ないろんな構造。みんなが新しいチェーン店にワーッと並んでは、しばらくすると飽きて行かなくなる。その割に昔からある一点ものの素敵なお店には、あんまりリスペクトが感じられない」
港町ならではの路地、入り組んだ先が見えない、曲がり角を曲がったら何があるんだろうというドキドキ感——そういうものを大事にしてこなかった街。だからこそ、震災後に多くの人が「元に戻そう」とする中で、松村さんは明確に宣言しました。
「つまらないと思っていた街に戻したくない。だから復興団体じゃありません」
闇鍋から生まれた「共犯関係」
震災直後、最初に仲間が集まったのは、船が突っ込んで全壊した元旅館でした。300年続く旅館からダイニングレストランにコンバージョンした1年目で被災してしまった、仲間の店。典型的な二重ローンを抱えた状態でした。
昼間は復興ボランティアとして泥かきや瓦礫の撤去を行い、夜な夜な、特に気の合った人たちがその2階に集まりました。
「僕らは『闇鍋』っていつからか呼んでたんですけど」と松村さんは振り返ります。建築家、大学の都市計画研究者、IT関係者——被災地メンバーと東京メンバーが、泥から掘り起こしたビールを酌み交わしながら作戦会議を重ねました。
「つまらなかった自治体行政とか、よくわかんない理由で威張ってた人たちが今身動き取れないから、今だったら自分たち好き勝手できるんじゃないの? っていうノリがあった。被災地でみんな復興って清く正しい健全なものっていうイメージを押し付けてくるけど、こういう場所だからこそかっこいいものを作りたいよね、と」
松村さんの活動初期の裏テーマは「できるだけ断らない」こと。面白そうな提案には乗ってみる。その結果、あらゆるジャンルの人々がフラットに集まる場が生まれました。そこから出たアイデアの8割は、何らかの形で実現したといいます。
主な活動実績(ISHINOMAKI 2.0)
- フリーペーパー「石巻VOICE」創刊(2012年度グッドデザイン賞ベスト100受賞)
- 復興バー設立(後に銀座で毎年1ヶ月間開催するイベントに発展)
- STAND UP WEEK(街を使った実験的なお祭り)
- 復興民泊(商店街の空き部屋を活用した「街ぐるみ宿」)
- Rhizomatiks(ライゾマティクス)サポートにより地元工業高校生の映像を石ノ森萬画館に投影
- 街なかにスケートボードパークを設置
石巻の特色:港町ならではの「猥雑さと底力」

「石巻って宮城県で人口が仙台の次に多いはずだし、北上川は日本で5番目に長い川だし、伊達家関連の建物とかお祭りがあったり、いろいろ誇れるものがあるはずなんですけど、あんまりそういうのも実感がなかった」
しかし松村さんには、幼少期の原体験があります。
1年に2日だけ「渋谷」になる街(石巻川開き祭りの熱気)
毎年8月の石巻川開き祭りの熱狂。普段は静かな商店街が、その2日間だけは「田舎者の表現ですけど、渋谷になるんですよ」と松村さんは語ります。
「いろんな新しい情報とか流行りのものとか、かっこいいものに出会えるのが”街”だった。そこにちょっと買い物に行く、歩くっていうのは楽しいし、少し背筋が伸びる体験だった」
モダンなおばさんに連れられて行った、街なかのデパートの最上階レストラン。ピザやシェイクといった、当時それなりに都会だった石巻だからこそ触れることができた文化。そういった原体験が、松村さんの「街に対するリアルな誇り」として残っています。
野良フォントが躍る繁華街(港町の路地と看板)
松村さんが愛してやまないのは、港町ならではの繁華街。立町大通り商店街とアイトピア通り商店街に挟まれた奥の方に広がるスナック街には、全テナントがスナックというビルがいくつも並んでいます。
「味のある古い看板。今どきのシュッとしたロゴとかフォントじゃない、手書きの一点物の野良フォントがいい感じである」
「古い飲み屋街みたいなのは好きで、そこでカウンターに座って、変なマスターと話すのは割と好きな時間ですね」
松村豪太さんの1日:散歩のスピードで街を感じる

「僕すごい引きこもり体質なので、派手なものがないんですよね」と笑う松村さん。
彼の最大の趣味は「散歩」です。
「歩くスピード、歩く目線、いつでも立ち止まれるっていうスピード感は大事だと思っていて。そこでいろんなものをじっと見たりする」
そしてもう1つの日課は、PCを開いてひたすら調べものをし、メールのやりとりをし、新しい企画の種をまくこと。地味だけど、それが松村さんの「ガチな時間の使い方」と話します。
こんなところがGOOTです:フェアでワクワクする「共犯者」の旅
松村さんの活動は、まさにGOOTが理想とする「フェアツーリズム」を体現しています。
「観光というのは『光を観に行く』体験なんだ」——これは、松村さんが親しくしている仲間と語り合う中で共有してきた考え方でした。
「わかりやすい何百年の歴史を持ってる神社仏閣とか、ナントカランドみたいな遊園地とか温泉とかじゃなく、その街でずっと営まれてきたユニークな面白い景色だったり、コミュニケーションだったり、ちょっと変な体験ができるもの。そういったものこそきっと観光の対象になるはず」
支援する・されるという関係を超えた「フラットな共犯関係」。外から来た人が「助けてあげる」のではなく、地元の課題を「一緒に面白がる」。これはGOOTが掲げる、旅人を仲間に変える「共創」そのものです。
石巻という「課題先進地」で面白いローカルのモデルを作れば、それは世界中で汎用性を持つ。一過性の観光ではなく、持続可能な未来への投資としての旅を、松村さんは提示し続けています。

街のフロントになった場所 ── IRORI石巻
99% DIYで生まれた「オープンシェアオフィス」

「自分たちの拠点が欲しい」——そんな思いから2011年12月に誕生したのがIRORIです。
二大商店街がクロスする最高の商業的価値を持つはずの土地。しかしそこは、オーナーの高齢化が進み、車庫として使われ、被災後はヘドロに埋もれ、壁には穴が開いた状態でした。
松村さんたちはボランティアの文脈でその場所を綺麗にし、オーナーとの信頼関係のもと「自分たちで投資して綺麗にするから、安く貸してください」と交渉しました。
「お金もないので、最初はここの半分だけお借りして。壁は本当にガチでベニヤ板を立てて塞ぐだけ。ただ格好はつけたかったので、全部白いペンキを塗ってホワイトキューブみたいな形にして。前面は石巻に当時あんまりなかった、外から丸見えのガラスのファサードにした」
初代IRORIは99%がDIY。「オープンシェアオフィス」という造語を掲げ、よくわからないけど面白そうな場所として、多くの人を引き寄せました。
地域に愛される場所へ(カフェ併設のリニューアル)
「何やってるかわかんないけど、若い人がいる、頑張ってるっていうだけで、地域の年配の方たちはすごく好ましく思ってくれて」と松村さんは振り返ります。地元の人々は、スタッフを息子や娘のようにかわいがり、ごちそうになる毎日だったそうです。
一方で「いろんな変な人、不思議な人がいっぱい来るけど、よくわかんなくて入りづらい」という声も。2016年、入口にカフェを設け、地域の人もふらりと立ち寄れる現在の形にリニューアルしました。






現在のIRORIは、街のロビーとして機能するカフェになっています。壁には手書きの石巻マップ。付箋や写真が次々と貼り足され、街の「今」が更新され続けています。

IRORI石巻 施設情報


- 所在地 宮城県石巻市中央2-10-2 新田屋ビル1F
- アクセス JR石巻駅から徒歩約10分
- 電話番号 0225-25-4953
- 営業時間 10:00〜19:00
- 運営 一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0
- 施設構成 カフェ、ショップ、レンタルスペース、オープンシェアオフィス
- 公式サイト https://irori.ishinomaki2.com/
※営業時間等は変更の可能性があるため、最新は公式サイトでご確認ください

