※本記事は2025年11月の取材をもとに構成しています。紅葉の風景など、季節の描写は当時のものです
- たじみDMO COO・小口英二さんが多治見で「官民の間」に立つ理由
- 多治見が“陶都”と呼ばれる背景(美濃焼・タイル産地としての厚み)
- 1泊2日のまち歩きモデルコース(駅周辺/笠原/永保寺/水月窯/本町オリベストリート)
- 工場見学・陶芸体験・タイル体験のポイント(予約・所要時間の目安)
名古屋から中央本線快速でおよそ30分。「陶都」と呼ばれる多治見市に到着です。
やきものの歴史は、実に1400年。作家やクリエイターが当たり前のように暮らす街で、新しい挑戦が静かに、しかし確実に動き始めています。
今回お話を伺ったのは、たじみDMOでCOO(最高執行責任者)を務める小口英二さん。17年前、金沢からこの地に移り住み、空き店舗のリノベーションや新規事業の創出を重ねながら、まちの風景を少しずつ変えてきました。「ものづくりを真剣にやっている街」を世界に発信したい——その言葉の奥には、地域への深い愛着と、フェアツーリズムへの共感がありました。
「金沢TMO」から多治見へ ── 小口英二さんが選んだ道

小口英二(おぐち・えいじ)さん
たじみDMO COO(最高執行責任者)
プロフィール:金沢の繁華街から、多治見のまちづくりへ
小口さんの原点は、大学時代を過ごした金沢にあります。
長野県出身の小口さんは、進学を機に石川県金沢市へ。繁華街でアルバイトに励み、やがてオーナーから店を任されるまでになりました。しかし、客足は伸びません。自らビラ配りに奔走する中で、ある現実に直面します。
「ビラまきをしながら『そもそも街に人がいない』ことを目の当たりにしたんです」
そのとき出会ったのが、金沢でまちづくりに取り組む会社でした。彼らの志に惹かれ、入社を決意。それが、この仕事の始まりでした。
そして17年前、小口さんはこの地へと移ります。
当時、「既存のまちづくり会社がうまく機能していない」という課題を抱えた多治見は、立て直し役を求めていました。マネージャーとして着任した小口さんは、以来、地域の方々とコミュニケーションを重ねながら、精力的にまちづくりに取り組んでいきます。
多治見との関わり:1人から50人へ、官民の「間」に立つ
移住当初は1人だった組織が、現在は約50人規模の「たじみDMO」へと成長しました。2022年4月、多治見まちづくり株式会社と多治見市観光協会、本町オリベストリートのまちづくり会社「華柳」の3社が統合し、新たな体制でスタートを切りました。
現場は頼もしいスタッフに任せつつ、小口さん自身は「新しい事業の種」を探して街を歩く日々を送っています。
「いい物件があれば所有者さんを探して『ここを使いたい』と調整したり、行政の方に事業のプレゼンをしたり。地域の経済界の方々に応援をお願いして回るのも、最近の大きな役割です」
官民の連携組織であるたじみDMOだからこそ、小口さんは常に「間」に立っています。民間の声を聞き、行政に予算をつけてもらう交渉をする。その逆もまた然り。人と人をつなぎ、まちに変化を生み出す——それが、小口さんの仕事です。
たじみDMO 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市本町3-25 ヒラクビル3階
- 電話:0572-23-2636
- 公式サイト:https://tajimi-dmo.jp/
多治見の特色:わが街を自慢したい「作り手」の集団
多治見は、1400年の歴史を持つやきものの街。国内シェア50%超を誇る美濃焼の一大産地として知られています。多くの作家やクリエイターが暮らしており、飲食店で隣り合わせた人が陶芸家だった、なんてことも珍しくありません。
「いろんな地域に行くと『うちの街には何もない』という声を聞くことが多いんですけど、多治見はそういう方が少ない。地域の自慢をしたい方が多いんです」
単に商売をしているだけでなく、街のことを意識しながら商売をしている人が増えている。そこが、今の多治見の面白さだと小口さんは語ります。新しいことを生み出そうという空気が高まり、顔見知り同士でこの地域を良くしていこうという動きが自然と生まれている。その熱量こそが、多治見の最大の魅力なのかもしれません。

小口英二さんの1日:器が料理を引き立てる街
小口さんの1日は、街を歩くことから始まります。
「新しい事業を生み出そうと思っていまして、そういう事例をいろいろと見に行ったりですとか、いい物件ないかなって街をブラブラしてたりですとか」
おすすめのスポットを尋ねると、まず挙がったのは多治見駅周辺でした。
「この駅周辺は最近すごく店も増えて楽しくなってきていますし、美味しい店が増えています」
「もともと多治見ってやきものの街なので、たぶん器がいいからということで、料理人の方々も結構がんばって活動されていて。どこのお店に行っても美味しいっていうのが、多治見の最近の特色じゃないかな」
やきものの街ゆえに「器が良いから、料理人も腕が鳴る」という相乗効果。美しい器に盛られた料理は、それだけで特別な体験になります。
小口さん自身のお気に入りは、近所の町中華。ラーメンとチャーハンを頼むのが定番だそうです。「そういう店がなくなっていくのは寂しい。事業を誰かに継いでもらうことも含めて、いろいろな可能性を模索したい」と語ります。
こんなところがGOOTです:フェアツーリズムの実践
小口さんの活動は、まさにGOOTが掲げる「フェアツーリズム」を体現しています。
価値の適正化(フェア)
「やきものを作るための土がだんだん少なくなってきているとか、燃料のことだったりですとか、皆さんいろいろとご苦労されてものづくりを頑張っておられる。そういう価値みたいなものをしっかりとお伝えしていきたい」
原材料である土の減少、燃料費の高騰、作り手の苦労——それらを理解した上で、その真の価値を世界に伝えようとする姿勢。それは、安さだけを求める観光とは対極にある考え方です。
つながりと共創
単なる観光客誘致ではなく、クリエイターと旅人が混ざり合うことで、街のあり方そのものを発信しようとしている多治見。顔見知り同士が「この地域を良くしていこう」と動く姿は、まさに「100人の観光客より、何度も訪れる10人の仲間」というGOOTの理念と重なります。
持続可能な地域づくり
「フェアツーリズム、公正観光というワードにすごく惹かれるところがあります」
「多治見が『ものづくりを真剣にやっている街だ』という、この街のあり方をどんどん世界に発信していければと思っています。皆さんと一緒に取り組んでいきたいなと」
思い入れのある店がなくなっていくのは寂しい——その感情を起点に、事業承継やリノベーションを通じて、100年先も「ものづくりを真剣にやっている街」であり続けるための土台を作っている小口さん。まちの記憶を継承しながら、新しい価値を生み出していく。その営みこそが、持続可能な地域づくりの本質なのかもしれません。
【1泊2日】多治見 まち歩きモデルコース(たじみDMOと巡る陶都)
【1日目】タイルの鼓動と幻想の夜(多治見駅→ヒラクビル→笠原→永保寺→宿)
岐阜県多治見市。かつて「日本一暑い街」として名を馳せたこの場所は、いま、土と炎が織りなす「タイルの街」として、静かに、しかし力強く新しい扉を開こうとしています。地域の人々と旅人が「仲間」として出会い、100人より10人、1回より10回の深い繋がりを目指す「GOOT」の視点で、この街の体温に触れる2日間を歩きます。
旅の始まり:JR多治見駅

中央本線に揺られて到着した多治見駅。ここから、土と炎が息づくまちの物語が始まります。
ヒラクビル|空きビル再生から生まれた交流拠点(本屋・喫茶・シェアオフィス)
2019年にオープンした複合施設「ヒラクビル」は、たじみDMOの象徴的な拠点です。もともと空きビルだったところを一棟まるごと借りてリノベーションしました。





「もともとここは宝石、時計、眼鏡を扱う宝飾店みたいなところだったんです」と小口さんは語ります。商談で使われていた重厚な家具、赤い絨毯は当時のまま。入口の世界時計や建物の真ん中にそびえる階段も、かつての店の風格を今に伝えています。
まちに開かれた場所づくり

リノベーションのプロセスは、まさに「ひらく」という名にふさわしいものでした。店内を彩るタイルは、市民ワークショップを開き貼っていただいたものも。いろいろな人に関わってもらいながら作り上げた空間です。
メガネレンズのシャンデリア

吹き抜けの中央に目を向けると、シャンデリアのように吊り下げられたオブジェが光を受けて輝いています。かつてこの店に眠っていたメガネのレンズを、金具で穴を開けて一つひとつ繋いでいったもの。店の記憶を宿す光の粒が、静かに揺れています。
ひらく本屋 東文堂本店


1階と2階に広がる書店は、創業から120年以上の歴史を持つ東文堂による新形態の本屋です。全国の書店の多くが取次から送られてくる本をひたすら並べる中、ここでは「自分たちで選んで、ちゃんと本を並べる」ことにこだわっています。知らなかった世界や文化と出会える——そんな本との偶然の出会いを大切にしています。
喫茶わに




1階の飲食スペースはたじみDMO直営の「喫茶わに」。書店に隣接し、本を片手にスープやお茶を楽しめる、まちの居間のような場所です。旬の食材を取り入れたスーププレートが人気で、自家製のドリンクやケーキもおすすめ。地元の作家さんによる美濃焼に盛り付けられた料理は、それだけで特別な一皿になります。
レンタルルーム

2階にはオール電化のキッチンを備えたレンタルルームがあり、1時間1,000円で利用可能。料理教室や勉強会など、さまざまな用途で使われています。キッチン周りには地元らしくタイルがあしらわれ、電力会社と連携して作られたという逸話も。
ヒラクビル 施設情報

- 所在地:岐阜県多治見市本町3-25
- アクセス:JR多治見駅から徒歩約8分
- 営業時間:10:00〜21:00(日曜は〜19:00)
- 定休日:水曜日
- 施設構成:ひらく本屋 東文堂本店、喫茶わに、シェアオフィス、レンタルルーム
- 公式サイト:https://hiraku-bldg.com/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
オザワモザイクワークス|モザイクタイル工場見学(笠原町)
喫茶わにのスープで心もおなかも満たされた後は、少し足を延ばして、タイルの生産量日本一を誇る笠原町へ。原料メーカー、釉薬メーカー、製造メーカーが分業体制で連携する、この地ならではのものづくりの現場を訪ねます。
小口さんが案内してくれたのは、タイルを製造する会社「オザワモザイクワークス」。「モザイクタイルというのは、一辺が5センチ以下の、小さいサイズの磁器質タイルのことです」と小澤さんの案内が始まります。製造しているタイルの8〜9割は建築の外装や内装に使われる建材ですが、最近は雑貨やDIY向けとして直接エンドユーザーに届ける販売も増えているのだとか。
乾式プレス成形


まずは成形工程から。水分6%のサラサラのパウダー状にした土を、300トンの圧力でプレスして形を作ります。手のひらに載せてもらった原料は、ほとんど水分を感じないほど乾いた粒。金型を変えることで、さまざまな形のタイルが生まれます。
施釉


プレスされたタイルに、泥状の釉薬をスプレーでかけていきます。この段階ではまだ地味な色。焼かれて初めて、あの美しい色の輝きが現れるのです。
焼成(全長26mトンネル窯)



工場の心臓部ともいえるトンネル窯は、全長26メートル。タイルを載せた台車が1時間に1台ずつゆっくりと押し込まれ、16時間かけて入口から出口まで旅をします。火は24時間つけっぱなし。最高温度1250度に達する炎が煌々と燃える様子を、入口と出口から覗くことができます。
貼加工

小さなタイルは、30センチほどのシートに加工されます。「貼り板」と呼ばれる木の板にタイルをジャラジャラと流し込み、ひっくり返して、紙やネットを貼る。熟練の職人は驚くほど速い手さばきでこなしていきます。小ロット対応が強みで、2〜3シートからの注文にも応えられるのがこの工場の特徴です。
ワークショップ






オザワモザイクワークスのブランド「Roche」の工房では、トレーやポットマットなどを作るワークショップも開催。好きなタイルを選んで並べ、目地を詰めて持ち帰れます。タイルは熱いものにも強いので、お茶の急須やお鍋を載せるのにぴったり。バラ売りのタイルを量り売りで購入し、アクセサリーにする人も増えているそうです。
「最近モザイクタイルが使われるのが少なくなってきていて、もう少しモザイクタイルの魅力を皆さんにお伝えしたくて、工場見学とかワークショップをやり始めているんです。 モザイクタイルミュージアムができてから、一般のお客さんがタイルをもっと買いたいとか、可愛いって言ってくださるので。じゃあこちらからももっと発信しないとって」——建材としてだけでなく、暮らしを彩る素材として再発見されたタイル。ここで体験すると、これからの人生でどこへ行ってもタイルが目に入るようになる、と小澤さんは笑います。
オザワモザイクワークス 施設情報

- 所在地:岐阜県多治見市笠原町986
- アクセス:JR多治見駅から車で約15分
- ワークショップ:要予約
- 電話:0572-43-2090
- 公式サイト:https://omw.co.jp
※最新情報は公式サイトをご確認ください
虎渓山 永保寺|(特別開催)もみじライトアップと水鏡の夜景

秋の夜だけに現れる、もうひとつの永保寺へ。
日が落ちると、700年の歴史を持つ古刹は幻想的な光に包まれました。臥龍池の水面が完璧な鏡となり、ライトアップされた国宝・観音堂と燃えるような紅葉が、上下対称の世界を作り出します。もみじの赤、松の緑、そして水面に映り込む光——すべてが溶け合い、この世のものとは思えない美しさに、しばし時を忘れました。





食事処 のぶ味|多治見名物「味噌おでん」で夜を締める
永保寺のライトアップで冷えた身体を温めに、「食事処 のぶ味」へ向かいました。看板の光が温かくともる、昔ながらのたたずまいです。

名物は味噌おでん。黒っぽい味噌だれの中に、芯まで味が染みた大根、とろとろの角煮、玉子、こんにゃく、豆腐がゴロゴロと沈んでいます。濃厚ながらもしつこくない深い味わいが、身体を芯から温めてくれました。


宿 一景|岐阜の「ものづくり」に包まれる一棟貸し(ヒノキ風呂)
今夜の「我が家」は、日本家屋を改装した一棟貸しの宿。
玄関を開けた瞬間から、岐阜の「ものづくり」に包まれます。リビングやキッチンには美しいタイル、洗面所には陶製のボウル、ペンダントライト、タオル、和紙——見渡せば、この地で生まれた品々が随所にあしらわれています。
ヒノキ風呂
思わず歓声が上がったのは、ヒノキで作られたお風呂。お湯を溜めると、森の香りがタイル張りの浴室に立ち上ります。汗をかいたタイルを眺めながらのんびりと湯につかっていたら、まち歩きの疲れもほどけていきました。大人数でもシャワーブースが別にあるので安心です。
自然のぬくもりを感じる木の椅子に腰かけ、地元のお酒を片手に過ごす夜。観光の拠点というより、この街に「帰ってきた」ような感覚になる時間が流れています。
2024年10月にオープンしたばかりのこの宿は、世界中のアーティストやデザイナーを受け入れるレジデンス拠点としても機能。多治見の「ものづくり」を五感で体感できる——まさに、この旅にふさわしい宿です。
宿 一景 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市小田町3-36
- 電話:080-7711-0001
- 特徴:一棟貸し(最大11名)、ヒノキ風呂、岐阜の「ものづくり」を随所に使用
- 備考:長期滞在・アーティストインレジデンス対応可
- 公式サイト:https://minoikkei.com/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
【2日目】伝統の源流とクリエイティビティ(永保寺→水月窯→修道院→本町)
虎渓山 永保寺(日中)|国宝2棟と名勝庭園を歩く



多治見2日目の朝。臨済宗南禅寺派の名刹「虎渓山 永保寺」を再訪しました。昨夜の幻想的な風景とはまた違い、秋の空と木々が織り上げる鮮やかな景色の中に、国宝が2つたたずんでいます。
国宝 観音堂


1314年に建立された観音堂は、禅宗の伽藍の中で最も大切な仏殿です。唐と日本の手法を折衷させた特殊な建築様式が特徴で、当時の面影を今に伝えるすぐれた建物として国宝に指定されています。正面から見上げると、その優美な屋根の曲線に息を呑みます。
国宝 開山堂
開山堂は、開創夢窓国師と開山仏徳禅師を祀るお堂です。礼拝のための外陣(礼堂)と、開山の墓塔と像を安置する内陣(祠堂)が、相の間でつながる独特の構成が特徴。岐阜県内では、ここ永保寺のみ国宝を2つ有しています。毎年3月15日は宝物が公開され、普段は非公開の各お堂内部に入って拝観することが可能です。
国指定名勝 庭園

優れた作庭家としても名高い夢窓国師が手がけた庭園は、京都の天龍寺や西芳寺(苔寺)と並ぶ代表作のひとつ。自然の地形や景観を巧みに活かして造られ、中世禅宗寺院の庭園として価値が高いとされています。秋晴れの日には、臥龍池が水鏡となり、紅葉と国宝建築が上下対称に映り込む絶景が広がります。
大イチョウ

境内には多治見市の天然記念物に指定されている、樹齢約700年、高さ約25.5mの大イチョウがそびえています。永保寺を開山した仏徳禅師がお手植えになったという言い伝えがあり、大切に保護されてきました。秋が訪れると葉が一斉に黄金色に染まり、境内を華やかに彩ります。
おみくじ達磨

参拝の記念に、愛らしい表情の赤いだるまを連れて帰りました。旅の思い出と一緒に幸運を運んでくれそうです。
虎渓山 永保寺 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市虎渓山町1-40
- アクセス:JR多治見駅からタクシーで約10分
- 入山可能時間:7:00~17:00
- 電話:0572-22-0351
- 公式サイト:https://kokeizan.or.jp
※最新情報は公式サイトをご確認ください
水月窯|人間国宝・荒川豊蔵の窯元で「土から作る」工程に触れる





永保寺から車で約5分。林の中にたたずむ水月窯は、人間国宝・荒川豊蔵が築いた窯元です。志野や瀬戸黒の技法を復興させた荒川豊蔵の意志を継ぎ、土を掘るところから焼成まで、すべてを手仕事で行っています。
土を掘り、洗う(水簸)


敷地内の林から土を掘り出すところから始まります。土管に入れてかき回し、5分ほど置くと石や塊が沈殿する。その上澄みの泥水だけをすくい、1週間置くと水と土が分離する。「水簸(すいひ)」と呼ばれるこの工程は、美濃焼の原点。赤い土、黄色い土、そして粘りを出すための土——3種類を混ぜ合わせて、ようやく「土」が完成します。
手ろくろ


電動ではなく、昔ながらの手で回すろくろで成形。3〜4日間乾かしてから、裏を仕上げていきます。
登り窯


この窯こそが、水月窯の真骨頂。昭和22年に火が入れられた登り窯には部屋が3つあり、すべてを焼くにはちょうど2日間かかります。——土を作り、手回しろくろで成形し、この登り窯で焼く。その工程が多治見市の無形文化財に指定されています。
穴窯


登り窯の奥には、志野焼に適した穴窯もあります。焼くものによって窯を使い分けるのだそうです。
ギャラリー




見学の最後に案内されるのは、靴を脱いで上がる和室のギャラリー。指で押した梅文様の汲出し、一つひとつ形の違う茶碗。棚に並ぶ器はどれも唯一無二の存在感を放っています。
水月窯 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市虎渓山町7-14
- アクセス:JR多治見駅からタクシーで約7分
- 電話:0572-22-1990
- 特徴:人間国宝・荒川豊蔵による築窯、多治見市無形文化財(工程)
- 販売:ギャラリーにて直接販売、美濃焼ミュージアム、セラミックパークMINO等でも取扱い
- 公式サイト:https://suigetugama-4.jimdosite.com
※最新情報は公式サイトをご確認ください
神言修道会 多治見修道院|丘の上にたたずむ白亜のバロック建築と修道院ワイン

水月窯を後にして車で10分ほど。緑ヶ丘の高台に、まるでヨーロッパの風景を切り取ったような白亜の建物が現れます。
神言修道会 多治見修道院は、昭和5年(1930年)、ドイツ人のモール神父によって設立されました。カトリック神言修道会の日本管区の本部修道院として、約100年の歴史を刻んでいます。
芝生の庭園を抜けて近づくと、白い壁と赤い屋根のコントラストが青空に映えて美しい。連なるドーマー窓、風見鶏のついた小塔、そして天を指す尖塔と十字架。バロック建築の重厚さと、どこか温かみのあるたたずまいが同居しています。

大聖堂
内部には、キリストの壁画や神秘的なステンドグラスが。日本のやきものの街に、こんな静謐な祈りの空間があることに驚かされます。
修道院ワイン
敷地内の畑で栽培したブドウを、愛知県の醸造所でワインに仕上げる。お土産に人気です。
神言修道会 多治見修道院 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市緑ヶ丘38
- アクセス:JR多治見駅からタクシーで約5分
- 休館日:月曜日
- 公式サイト:https://svdtajimi.com
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老鰻亭 魚関|“うなぎの街”多治見の老舗でランチ

2日目のランチは、多治見名物のうなぎで英気を養います。
なぜ多治見にはうなぎ屋が多いのか。それは、窯の炎と向き合う陶工たちが、消耗した体力を回復するために高たんぱくで消化の良いうなぎを食べてきたから。市内には今も老舗が点在し、焼き加減や味わいは店ごとに異なります。多治見は「やきものの街」であると同時に「うなぎの街」でもあるのです。
土岐川に架かる多治見橋の近くにたたずむ「老鰻亭 魚関」は、120年以上の歴史を持つ老舗うなぎ店です。
運ばれてきたうなぎ丼を前に、思わず息を呑みます。炭火で焼き上げられた蒲焼きは、外はカリッと香ばしく、中はふっくら。代々受け継がれてきた秘伝のタレが、艶やかに光っています。

午後の街歩きに備えて、しっかりと腹ごしらえをしました。国宝の禅寺、人間国宝の窯元、バロック建築の教会を巡った午前中。午後はいよいよ、タイルと器の世界へ足を踏み入れます。
老鰻亭 魚関 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市本町4-32-1
- アクセス:JR多治見駅から徒歩で約10分
- 電話:0572-22-5355
- 営業時間:11:30〜14:00(L.O.13:30)、17:00〜21:30(L.O.19:30)
- 定休日:不定休
- 公式サイト:https://www.uoseki.co.jp
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多治見市モザイクタイルミュージアム|藤森照信建築とタイル体験工房

タイルの生産量日本一を誇る笠原町。その象徴とも言える建物が、ゆるやかなくぼみにたたずんでいます。
青空を背景に現れるのは、まるで地面から生えてきたかのような土色の巨大な山。滋賀県の「ラ コリーナ近江八幡」を手がけた建築家・藤森照信氏の設計です。緑の植物に縁取られ、壁面にはタイルと茶わんが埋め込まれている。正面に回ると、建物の大きさに比べて驚くほど小さな入口が見えます。まるで童話の世界に迷い込んだような、ぽっかりと開いた穴。およそ「ミュージアム」という言葉から想像される姿とはかけ離れた、不思議なたたずまいです。
タイルのカーテンが揺れる吹き抜け




4階へ上がると、息を呑むような光景が広がります。白いタイルに包まれた空間の中、ぽっかりと開いた天窓から陽光が差し込み、色とりどりのタイルをつないだ「タイルのカーテン」が宙を舞っています。青、白、赤、黄——昭和の家庭を彩った浴室や台所のタイルたち。懐かしさと新しさが同居する、まるで宝石箱をひっくり返したような空間です。
3階はモザイクタイルの歴史や製造工程について学べるフロア。2階にはタイルを使用したインテリアブースが並ぶ、ショールームのような空間が広がります。実際の住空間でタイルを見ると、改めてその魅力に気づかされました。
「簡単だけど、奥が深い」体験工房

体験工房では、フォトフレームやコースターを作るタイル工作が人気です。テーブルに並べられた何十種類ものタイル——四角、六角、丸、細長いもの、青、緑、ピンク、グレー。「ボンドでタイルを貼っていくだけです。すごく簡単」と説明が始まります。
「でもね、奥が深いんですよ」。スタッフは続けます。「自分で選んで、自分でデザインする。それが楽しいんです。簡単なんだけど、一瞬でアートができる」
参加者たちは真剣な表情でタイルを選び、並べ、悩み、また並べ直す。ある人は修道院で見たステンドグラスをイメージして、ある人は放射状に広がるアシンメトリーなデザインを。10分、15分で仮置きを終え、ボンドで貼り付けていく頃には、みんな夢中になっています。ここでは誰もがクリエイターになれる——タイルの街だからこそ生まれた、特別な時間です。
多治見市モザイクタイルミュージアム 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市笠原町2082-5
- アクセス:JR多治見駅南口より東鉄バス笠原線「東草口行き」「羽根行き」乗車「モザイクタイルミュージアム」下車
- 営業時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
- 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
- 入館料:500円(常設展示・特別展示料金)、高校生以下無料
- 体験工房:タイル工作体験あり(所要時間約30分〜1時間)
- 電話:0572-43-5101
- 公式サイト:https://www.mosaictile-museum.jp/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
本町オリベストリート|陶都の歴史が残る約400mをまち歩き


小口さんが次に案内してくれたのは、利休七哲・古田織部の名を冠した本町オリベストリート。
明治から昭和初期にかけて、多治見の商業の中心として栄えたこの通りには、美濃焼の問屋が軒を連ね、大層にぎわっていたそうです。明治33年に名古屋までの鉄道が開通すると、その勢いはさらに加速し、美濃焼は全国へと広がっていきました。
今も通りを歩けば、当時の面影を残す古い蔵や商家が点在しています。新旧の店が自然に溶け合う、歩くたびに発見がある通りです。
THE GROUND MINO|美濃の「土」と出会う拠点(ショップ・ギャラリー)




本町オリベストリートの中ほどに位置する複合施設「THE GROUND MINO」を訪れました。「新しい創造は、『美濃』土の生まれる場所から」をコンセプトに、ショップ、ギャラリー、飲食店、陶芸体験スタジオなど複数のエリアで構成されています。
門をくぐると、見えるのは「at Kiln MINO」のショップ&ギャラリー。作家ものの器が静かに並ぶ空間は、眺めているだけで時間を忘れてしまいます。
at Kiln MINO Ceramics Studio|電動ろくろで陶芸体験(マーブル模様づくり)




奥へ進むと、陶芸体験ができるスタジオがあります。ここで使うのは、2022年にグッドデザイン賞を受賞した新素材「MINO MAKELAY(ミノメイクレイ)」。白、赤、黒、グレーなどから2色の土を選び、電動ろくろでマーブル模様の器を作ります。
この土はほとんど水を吸わないため、シミやカビの心配が少なく、食洗機も電子レンジもOK。日常使いにぴったりの器が作れます。マーブル模様は土の混ざり方で変わるため、同じものは二つと生まれません。
スタッフの手ほどきを受けながら、回転する土に指を添える。少しずつ形が立ち上がっていく感覚は、まさに「土を愉しむ」時間です。茶碗やカップなど、世界にひとつだけの器ができあがります。
予約制のコースは約90分で6,600円。当日ふらりと立ち寄れる30分のコース(3,650円)もあり、土の色は選べませんが、空きがあれば気軽に体験できます。
本町オリベストリート スポット情報
- 所在地:岐阜県多治見市本町(長さ約400m)
- アクセス:JR多治見駅から徒歩約15分
- 公式サイト:https://www.oribe-street.com
※最新情報は公式サイトをご確認ください
at Kiln MINO Ceramics Studio 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市本町6丁目2
- 営業時間:10:00〜18:00
- 定休日:水曜日(不定休あり)
- 陶芸体験:予約制コース 6,600円(約90分)、当日30分コース 3,650円
- 電話:0572-26-8651
- 公式サイト:https://atkiln.com/mino/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
玉木酒店|大正の長屋で出会う地酒と器/2階ギャラリー kakurega


軒先に吊るされた杉玉が目印。大正時代から続く長屋で営む老舗酒屋に足を踏み入れます。
縦格子の2階、年季の入った木の引き戸、店先に並ぶ盆栽と赤い酒ケース。オーバーオール姿の四代目店主・玉木さんが、笑顔で迎えてくれました。
地元の蔵元を知る
店内には、地元の三千盛をはじめとする日本酒や、ワイン、調味料など、こだわりの商品が並びます。玉木さんご夫妻がセレクトした品々は、どれも美味しいと評判です。
ギャラリーとしての顔


2階にはギャラリー「kakurega」が。木のカウンターには、作家ものの器がさりげなく並んでいました。酒屋であるとともに、多治見の「ものづくり」を発信する場所でもあるのです。

玉木酒店 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市本町4-46
- 営業時間:9:00〜19:00
- 定休日:水曜日
- 電話:0572-22-0004
- 特徴:大正時代からの長屋、ギャラリー併設
安土桃山陶磁の里 ヴォイス工房|穴窯フェアで炎の熱気を浴びる



旅のクライマックスは、夜の穴窯へ。
闇の中に浮かび上がる石積みの窯。焚き口からは、オレンジ色の炎がゆらめいています。——人の手では触れることのできない熱が、今まさにこの中で器を焼き上げているのです。
年に一度の「穴窯フェア」
ヴォイス工房では、年に1回「穴窯フェア」が開催されます。昔ながらの方法で穴窯に薪をくべ、自分の作品を焼成できる貴重な体験。普段はなかなか見ることのできない窯焚きの現場に立ち会えるのです。
薪をくべる、原始的な緊張感

背後には山のように積まれた薪。前掛け姿の職人が、リズミカルに薪を炎の中へ投げ入れていきます。パチパチと爆ぜる音、顔に当たる熱気、煙の匂い。この日は見学者も実際に薪をくべることができ、その瞬間の緊張感は言葉にできません。
窯の上にはお供え物が置かれています。窯の神様への祈り——何日もかけて温度を上げ、炎と対話しながら器を焼く。その営みは、1000年以上前から変わらない、火と土と人の物語です。
安土桃山陶磁の里 ヴォイス工房 施設情報
- 所在地:岐阜県多治見市東町1-9-17
- 営業時間:10:00〜18:00(受付は16:00まで)
- 定休日:火曜日(祝日を除く)、年末年始
- 電話:0572-25-2233
- 特徴:年1回「穴窯フェア」開催
- 公式サイト:http://kds-kiln.co.jp/v-kobo/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
- 多治見駅(JR多治見駅):1泊2日の起点。名古屋から約30分で“陶都”の入口へ
- ヒラクビル(本町):空きビル再生で生まれた交流拠点。書店・喫茶・シェアオフィスが同居する“街のハブ”
- ひらく本屋 東文堂本店(本町・ヒラクビル内):「選書する本屋」。偶然の一冊に出会える、小さな編集室みたいな場所
- 喫茶わに(本町・ヒラクビル1階):美濃焼の器で味わうスーププレート。旅の準備と余韻を受け止める“まちの居間”
- オザワモザイクワークス(笠原町):モザイクタイルの現場へ。工場見学で“タイルが生まれる工程”を体感
- 虎渓山 永保寺(虎渓山町):国宝建築と名勝庭園。静けさの中で“陶都の時間”を深呼吸する場所
- 食事処 のぶ味(小田町):名物“真っ黒な味噌おでん”。陶都の夜に沁みるローカル飯
- 宿 一景(小田町):一棟貸しの宿。タイルや陶器のディテールに包まれ、ヒノキ風呂で身体の芯からほどける
- 水月窯(虎渓山町):人間国宝・荒川豊蔵が築いた窯元。土から窯へ——手仕事の時間軸に触れる場所
- 神言修道会 多治見修道院(緑ヶ丘):白亜のバロック建築と静謐な光。敷地内醸造の修道院ワインも名物
- 老鰻亭 魚関(本町):明治創業の老舗うなぎ。窯の街の“体力回復メシ”として受け継がれてきた味
- 多治見市モザイクタイルミュージアム(笠原町):“土の山”の建築とタイル文化。体験工房でタイル工作(30分〜)も
- 本町オリベストリート(本町):美濃焼で栄えた通りを歩く。蔵や商家の面影と新しい店が混ざる“発見のストリート”
- THE GROUND MINO(本町):ショップ・ギャラリー・飲食・体験が集まる複合施設。「美濃の土」から今をつくる拠点
- at Kiln MINO Ceramics Studio(本町):電動ろくろ体験で器づくり。旅の手触りを“自分の器”として形にする
- 玉木酒店(本町):杉玉が目印の老舗酒屋。地酒と“おいしい”が集まり、2階ギャラリーも楽しめる
- 安土桃山陶磁の里 ヴォイス工房(東町):穴窯の熱と炎を浴びるクライマックス。年1回「穴窯フェア」開催

