- 髙本泰輔さんが金沢のまちづくりに関わり続ける理由
- 金沢の「観光レイヤー」の奥にある深い魅力
- 髙本さんと歩く金沢1日コース(もてなしドーム〜ひがし茶屋街〜長町〜尾山神社〜夜の近江町市場)
北陸新幹線が開業して10年。金沢の街には、世界中から旅人が押し寄せるようになりました。兼六園、ひがし茶屋街、21世紀美術館──。しかし、この城下町には、ガイドブックには載らない「もうひとつのレイヤー」が存在します。
今回GOOTが出会ったのは、髙本泰輔さん。株式会社金沢商業活性化センターで、商店主と行政の「通訳」として街を面白くする仕掛けを続けている、まちづくりの案内人です。
ガイドブックには載らない金沢の「奥」へ──髙本さんと一緒に、一日歩いてきました。
「金沢TMO」から街へ ── 髙本泰輔さんが選んだ道

髙本 泰輔(たかもと・たいすけ)さん
株式会社金沢商業活性化センター常務執行役員
内閣官房 地域活性化伝道師
中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー
一般社団法人全国タウンマネージャー協会理事
プロフィール:エンジニアから、地元・金沢の街を創る仕掛け人へ
「金沢生まれの髙本です。1974年生まれ。金沢市の街の中で生まれました」
インタビューは、髙本さんの淡々とした自己紹介から始まりました。
地元の小中高、大学も金沢。エンジニアとして就職し、一時期は東京へ。そして再び金沢に戻り、今はまちづくりの会社で働いています。
最初に手がけたのは、片町の商業施設「プレーゴ」。長らく使われていなかった土地に誕生した、円形のパティオを持つショッピングモールです。
「そういう、まちづくりをやる会社に入社しました」
金沢との関わり:地元の商店主と行政の「通訳」として、街を面白くする
現在の仕事は多岐にわたります。地元の商店街の人たち、行政の担当者。そうした人々と一緒になって、まちづくりのプランを作り、さまざまな事業を動かしています。
なかでも力を入れているのが、インバウンド対応です。
「今一番やってるのはインバウンド。外国人の方々がいっぱいいらっしゃってるので、いかに金沢を楽しんでもらえるか。マップを作ったりとか、免税の対応だとか、観光案内とか、そういったことを地元の皆さんたちとやってます」
そして、髙本さんが課題として挙げるのは、急増する外国人観光客に対する「朝と夜の空白の時間」。
「外国人がやたら夜歩いてるんですよ。で、多分すごく暇してる。それが今ちょっと金沢のウィークポイントで」
ご飯を食べた後の時間、そして朝食を探す朝の時間帯。そうした旅人たちに対して、どんなサービスを提供できるか。地元の人たちや観光業界の人たちと、今まさに話し合っているところだと言います。
金沢の特色:保守的な街に、新しい風を
「地元の人たちの特色で言うと、やっぱり城下町なので、わりと保守的。表現があんまり上手じゃない」
髙本さんは、地元の人々の気質をそう表現します。400年続く城下町の気風が、今も街に息づいているのかもしれません。表現が苦手な分、つながりが薄れていく面もある。それでも、髙本さんはそこに可能性を見出しています。
「外の人たちとのつながり、特に外国人の方々ともっと交流を持てば、より面白い街にどんどん変化していくんじゃないかなっていうのはすごく思います」
髙本泰輔さんの1日:フレックスな働き方と、夜の「作戦会議」

昼:街の情報キャッチ
髙本さんの働き方は、フレックスタイム制。出社時間は自由です。
「オフィスに来て、地域の人たちとミーティングを重ねたり。空いてる物件なんかをリサーチして、お店を入れるような仕事をメインでやってたりするので、日々動いている情報をキャッチしながら仕事してますね」
空き物件に新しいお店が入り、街の景色が変わっていく。その最前線に髙本さんはいます。
夜:「飲みニケーション」という名の地域づくり
「夜は夜で会合という名の地域のコミュニケーションづくりというやつで、飲みニケーションをやりまくってるということですね」
髙本さんは笑いながら語りますが、この「飲みニケーション」こそが、まちづくりの核心かもしれません。
こんなところがGOOTです:観光のレイヤーを超えて、旅人を街の「仲間」にする
金沢には、一般的な「観光のレイヤー」と、その奥にある「深いレイヤー」がある。
「いかにその深いところを知ってもらえるかっていうのがすごく大事かなと思ってます」
観光地にはガイドがいる。でも、街全体で考えると、もっと知ってもらいたい場所がたくさんある。そういうちょっと深掘りした金沢の観光を楽しんでもらえるように、これからは考えていかなければならない──髙本さんはそう語ります。
表現が苦手な地元の人たちと、金沢の「奥」を知りたい旅人たち。その間に立って、つながりを生み出していく。それが髙本さんの仕事です。
髙本さんと歩く金沢 ── 100人より「10人×10回」訪れたくなる街の物語
ここからは、金沢まち歩き体験記として、髙本泰輔さんの案内で街を歩きます。単なる名所巡りではありません。この土地を愛する「仲間」として、金沢の過去・現在・未来を繋ぐ高低差と、そこに息づく「もてなしの心」を肌で感じる旅です。
金沢まち歩き:旅のプロローグ(心の傘)
金沢駅・もてなしドーム|金沢の玄関口で感じる“もてなし”


旅の始まりは、幾何学的なアルミ合金のトラスが秋空を切り取る金沢の玄関口から。
見上げれば、約3,000枚のガラスと6,000本のアルミフレームが織りなす大屋根が広がっています。「もてなしドーム」と名付けられたこの空間には、雨や雪の多い金沢で「訪れる人にそっと傘を差し出す」という想いが込められています。直径12mの「テンションリング」が空を円く切り取り、晴れた日には青空が、雨の日には柔らかな光が降り注ぎます。
巨大な構造物でありながら、どこか温かい。それが金沢という街の第一印象でした。
地元で愛される回転寿司|金沢の海の幸を味わう


金沢に着いたら、まずは腹ごしらえ。地元で愛される回転寿司へ。 皿の上で艶やかに光るエビ、脂ののった白身魚。回転寿司とは思えない鮮度に、思わず息を呑みました。
第1章:文豪の記憶と茶屋街の迷宮
徳田秋聲ゆかりの道|浅野川沿いの木漏れ日

腹ごしらえを終えたら、駐車場へ。ここからひがし茶屋街へ向かいます。
秋の木漏れ日が落ちるこの川沿いは、文豪・徳田秋聲(とくだ・しゅうせい)が幼少期に小学校へ通った道。静かな水音と落ち葉が、物語のプロローグを飾るかのようです。
観光客で賑わう茶屋街へ向かう前の、静謐なひととき。金沢の「奥」への入口は、こんな何気ない川べりにあるのかもしれません。
ひがし茶屋街(重要伝統的建造物群保存地区)|格子と暮らしの気配




駐車場に車を止めて、ひがし茶屋街へ。
秋晴れの空の下、朱色の壁と柳の緑が鮮やかなコントラストを描いています。文政3年(1820年)に加賀藩が茶屋街を公許して以来、200年以上の時を重ねてきた「生きた文化の場」。石畳を踏みしめながら歩くと、観光客の姿に混じって、この街で暮らす人々の日常が垣間見えます。



繊細な格子が描く光と影のリズムは、金沢の美意識そのもの。新しく張り替えられた格子の木肌が、午後の陽光を柔らかく受けていました。
暮らしのおまじない|軒先のトウモロコシ(魔除け)

軒先に目をやると、看板の横に紅白の紐で結ばれたトウモロコシが吊るされています。
これは「四万六千日」の縁日に授かる魔除けです。旧暦7月9日に観音様に参拝すると、四万六千日分の功徳があるとされ、その日に授かったトウモロコシを軒先に飾る風習が今も残っています。観光地でありながら、暮らしの息遣いが感じられる。それがひがし茶屋街の魅力です。
第2章:知の円環と「ミライ」を描く広場
石川県立図書館(百万石ビブリオバウム)|円形吹き抜けと30万冊



ひがし茶屋街を後にし、車で向かったのは2022年に開館した石川県立図書館。
足を踏み入れた瞬間、圧倒されました。木のルーバーに包まれた円形の吹き抜け空間。約30万冊の本が、まるで劇場の客席のように円弧を描いて並んでいます。
「百万石ビブリオバウム」の愛称を持つこの図書館は、「本との偶然の出会い」を大切にした独自の分類で知られています。好奇心のままに棚を巡れば、思いがけない1冊に出会える。本に囲まれる幸福感がここにあります。
BOOKRIUM(ブックリウム)|本が宙を舞うデジタル体験


地下には「BOOKRIUM」と名付けられた空間が。
湾曲した巨大スクリーンに、本のカバーが星のように浮遊しています。髙本さんの背中越しに見るその光景は、まるで知の宇宙を漂っているよう。伝統と革新が共存する金沢らしい、幻想的なデジタル体験でした。
- 所在地:石川県金沢市小立野2-43-1
- 開館時間:閲覧エリア9:00〜19:00(土日祝は18:00まで)
- 休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、特別整理期間
- 公式サイト:https://www.library.pref.ishikawa.lg.jp/
※最新情報は公式サイトをご確認ください
片町・プレーゴ(PREGO)|挑戦の記憶が残る広場

図書館を後にし、髙本さんの「原点」へ向かいました。
片町の商業施設「プレーゴ」。2001年、遊休地だった場所に髙本さんたちが手がけた、円形のパティオを持つショッピングモールです。個性的なショップが軒を連ね、金沢の新しい風景を切り拓いてきました。
しかし、2026年3月での閉鎖が決まっています。創設に関わった髙本さんと共に歩くこの広場には、四半世紀にわたる挑戦の記憶が刻まれていました。時代の変遷を見つめながら、次の金沢をどう創るか。髙本さんの眼差しは、すでに未来を見据えています。
第3章:高低差が織りなす城下町の骨格
竪町ストリート(タテマチ)|“EST.1632”が語る商店街




片町から竪町商店街へ。
街灯に掲げられたオレンジのバナーには「EST.1632 TATEMACHI ST.」の文字。約400年の歴史を持つ商店街です。
石畳のストリートには、古着店、家具や雑貨店、私設美術館、レストランにカフェなど個性的なショップが軒を連ねています。北陸のファッションタウンとして知られるこの通りは、伝統と新しさが自然に混ざり合う場所です。
金沢学生のまち市民交流館(旧佐野家住宅)|和風建築の残像

竪町から再び片町へ。表門と築地塀を構えた堂々たる和風建築が現れました。
旧佐野家住宅。大正5年に建てられた資産家の邸宅で、現在は「金沢学生のまち市民交流館」として活用されています。土蔵を備えたアズマダチの外観が、かつての風格を今に伝える。観光地として整備されたエリアの外にも、こうした歴史の断片がさりげなく残っているのが金沢の奥深さです。
長町武家屋敷跡|土塀と用水がつくる静けさ




木倉町を通り長町へ。
土塀の脇を、大野庄用水が澄んだ音を立てて流れています。木漏れ日が水面に揺れ、武家屋敷の塀と用水が織りなす風景は、加賀藩時代からほとんど変わっていません。武士の誇りが、今も静かに息づいています。
土塀に挟まれた石畳の小径を、髙本さんの後について歩きます。松の枝が塀の上から顔を覗かせ、午後の光が土壁に影を落としている。武士たちが行き交ったであろうこの道を歩いていると、自分もこの街の一部になったような錯覚を覚えます。
長町研修塾・山景園|職人の学びが息づく庭


長町武家屋敷跡の一角に、「金沢職人大学校 長町研修塾」の看板を掲げた門があります。江戸末期から明治初期に建てられたとされるこの建物は、武士系建物の特徴を継承した典型的なもの。1999年に、金沢職人大学校の研修の一環として改修されたそうです。


石畳の道を、髙本さんが歩いていきます。
奥には「山景園」と名付けられた庭園が広がっていました。医王山を薬師如来に見立て、金沢の街角から望める山々を自然石で表現した茶庭です。実習生と講師の共同制作によるこの庭では、野点も催されるのだとか。
せせらぎ通り商店街|“1階なのに地下”が生まれる地形


長町武家屋敷跡を抜けると、用水沿いに新旧の文化が交差する「せせらぎ通り」へ。
髙本さんが教えてくれた地形の妙。高台(城側)との高低差があるため、「1階なのに地下のよう」な隠れ家的空間が生まれています。用水の音を聴きながら歩くこの通りには、カフェやギャラリーが点在し、地元の人々の憩いの場となっています。
第4章:和漢洋が溶け合う祈りの杜
尾山神社|和漢洋折衷の楼門と菊桜



せせらぎ通りから金沢城の方向へ歩を進め、尾山神社へ。
石造りの鳥居の向こうに見えるのは、日本の神社とは思えない不思議な楼門。明治8年(1875年)に建てられたこの神門は、和・漢・洋の三様式を折衷した全国でも珍しい建築です。最上階にはギヤマン(ステンドグラス)がはめ込まれ、かつては日本海を航行する船の灯台の役割も果たしていたと言われています。
利家公と菊桜|受け継がれる「命のバトン」

境内を進むと、馬上で槍を構える前田利家公の銅像が現れました。加賀藩祖の凛々しい姿が、夕暮れの空に映えています。
その近くには「菊桜の由緒」と記された案内板。尾山神社の菊桜は、国の天然記念物に指定されていた兼六園の菊桜から接ぎ木された、いわば「命のバトン」を継いだ希少な桜です。春になれば、一つの花に300枚以上の花弁をつけるという。受け継がれてきた命の重みを、案内板の前で感じました。
鼠多門橋|新しい回遊ルート

2020年に復元されたこの橋は、尾山神社と玉泉院丸庭園を直結する新しい回遊ルート。真新しい木橋を渡ると、140年ぶりに蘇った鼠多門が待っています。
玉泉院丸庭園|立体的な庭園美


鼠多門を抜けた先に広がるのは、玉泉院丸庭園。
石垣を景観に取り入れ、22mもの高低差を活かしたダイナミックな庭園です。池に架かる白い橋、背後にそびえる石垣と木々の緑。藩主たちが愛でた風景が、現代に蘇っています。
金沢21世紀美術館|伝統の隣で呼吸する現代アート

玉泉院丸庭園から歩いてすぐ、金沢21世紀美術館へ。
館内は、チケットを購入して観覧する展覧会ゾーンのほか、無料で出入りできる交流ゾーンも設けられています。有名なレアンドロ・エルリッヒのスイミング・プールを交流ゾーンから遠目に眺め、人気のラビットチェアが並ぶ一角へ。その影が、夕方の光を受けて白壁に伸びています。くつろぐ人々のシルエットが、まるでアート作品の一部のよう。
伝統のすぐ隣で、現代のアートが自由に呼吸している。金沢という街の懐の深さを感じる光景でした。
エピローグ:夜の帳に浮かぶ、金沢の滋味
近江町市場・あまつぼ|金沢おでんと地酒


日が暮れ、髙本さんに連れられて向かったのは近江町市場。
にぎやかなアーケードを歩くと、「市場めし あまつぼ」の暖簾が目に入りました。「海鮮料理」「金沢おでん」「加賀野菜」「地酒」──看板に並ぶ文字が、金沢の食の豊かさを物語っています。
五感で味わう金沢の滋味


暖簾をくぐり、テーブル席へ。
金沢おでんの優しい香りが迎えてくれました。車麩、バイ貝、赤巻かまぼこ。金沢ならではの具材が、染み込んだ出汁とともに輝いています。竹籠には、カリッと揚がったガスエビの唐揚げ。
そして、ガラスの器に盛られた刺身の盛り合わせ。艶やかな切り身が、市場直送の鮮度を伝えています。
まち歩きの疲れを癒やしてくれる地酒を堪能しながら、髙本さんと語り合う。この瞬間、旅人と地域の境界が溶けていくのを感じました。
新天地・ヒネモス|昭和の残り香が漂う社交場


近江町市場を後にし、髙本さんが案内してくれたのは「新天地」。
路地の両側に、スナックや小さなバーがびっしりと並んでいます。看板のネオンが闇に浮かび、昭和の残り香が漂っています。
ここは、誰もが肩書きを脱ぎ捨てて語り合える社交場。髙本さんが言っていた「飲みニケーション」の舞台は、きっとこんな場所なのでしょう。


この日訪れたのは、釣り好きの店主が営む「ヒネモス wine sake shokudo」。赤星で乾杯したあとは前菜の盛り合わせを。地元の人々が集うこの場所で、ワインを傾けながら金沢の夜はゆっくりと更けていきます。
月夜の犀川|室生犀星が愛した川へ

最後にたどり着いたのは、夜の犀川。
月が川面を静かに照らし、ライトアップされた犀川大橋が闇に浮かんでいます。文豪・室生犀星が愛した川。昼間歩いた長町や片町のすぐそばに、こんな静謐な風景が広がっていました。
川音を聞きながら、伝統と革新が共存する金沢の長い一日を振り返る。
「一般的な観光と言われるようなレイヤーと、かなり奥深いところもあって」
髙本さんの言葉が、今なら理解できる気がします。観光地としての金沢ではなく、この街を愛する「仲間」として訪れる金沢。100人の観光客より、10人の仲間が10回訪れる関係性。
夜の金沢は、まだ旅人を待っています。
- 金沢駅・もてなしドーム(金沢駅):「傘を差し出す心」を表現した玄関口
- ひがし茶屋街(東山):文政3年から続く生きた文化の場
- 石川県立図書館(小立野):知の円環「百万石ビブリオバウム」
- プレーゴ(片町):髙本さんが手がけた商業施設(2026年3月閉鎖予定)
- 竪町ストリート(竪町):伝統と新しさが混ざり合う石畳の商店街
- 長町武家屋敷跡(長町):土塀と用水が織りなす武家の面影
- 長町研修塾・山景園(長町):医王山を見立てた庭園
- せせらぎ通り商店街(長町):高低差が生む隠れ家的空間
- 尾山神社(尾山町):和漢洋折衷のギヤマン楼門と菊桜
- 鼠多門橋・玉泉院丸庭園(金沢城):140年ぶりに蘇った城門と立体的な庭園
- 金沢21世紀美術館(広坂):伝統のすぐ隣で呼吸する現代アート
- あまつぼ(近江町市場):金沢おでんと地酒の夜
- 新天地・ヒネモス(片町):昭和の残り香が漂うディープな社交場
- 犀川(片町):室生犀星が愛した月夜の川

